違法建築の不動産を放置するリスクとは?対処法も解説
相続によって引き継いだ家が違法建築に該当し、「このまま放置しても大丈夫だろうか?」「トラブルが起きる前に必要な措置をとりたい」などと考えている方もいらっしゃるでしょう。
違法建築に該当することが判明した場合、専門家に相談して慎重に対処法を検討することをおすすめします。
この記事では、違法建築を放置するリスクや、違法建築問題を解決する方法について解説します。
違法建築とは
違法建築となるのは所有者が無理な増改築を行ったケースの他に、防災設備が古かったり接道義務に違反したりして違法建築に該当するケースもあります。
どのような建物が違法建築に該当するのか、具体的に説明します。
(1)違法建築に該当する建物とは
違法建築に該当するのは、建物所有者がわざと法令に違反して建てた建築物はもちろん、建築基準法や都市計画法・消防法・条例等にひとつでも違反している場合にも該当します。
たとえ建築物の耐震強度が十分で、地震や台風のような自然災害に耐える構造であっても、違法建築に該当する場合があるのです。
また、自分の相続した建物が違法建築には該当しなくとも、「既存不適格建築物」となっているというケースに注意しましょう。
既存不適格建築物とは、建築物を建てた時点では法令の範囲内で建築されたのにもかかわらず、建築後に法令の改正があり現行法に適合しなくなった建築物を指します。
既存不適格建築物は決して違法建築といえないものの、改めて工事をして、現行法に適合させる措置が必要な場合もあります。
(2)違法建築となる原因
所有している建物が違法建築となる原因としては主に以下の2つです。
- 建物を建築したとき、完了検査を受けていなかった
- 建物を増改築して、法令で定めた制限をオーバーしてしまった
建築工事完了後は、建築申請のとき提出した図面に従い建物が建てられたか否かを必ず確認しなければいけません(建築基準法第7条第1項)。
その確認のために行われるのが「完了検査」です。
完了検査は各地方自治体の特定行政庁(例:〇〇市建築主事)、指定確認検査機関のいずれかに申請を行います。
検査後、問題なければ「検査済証」が交付されます。
ただし、完了検査を受けていないと、すぐに違法建築とはならないものの、手続き上は違反となるので注意しましょう。
また、建築当時は違法建築ではなかった建物でも、以後に増改築を行い、建ぺい率・容積率や斜線規制等の制限に違反する可能性もあります。
(3)違法建築となる具体的な事例
所有している建物が違法建築となるのは次のようなケースです。
- 建築確認申請をせず(無許可)建築した建物
- 建築確認申請は済ませたものの、実際の建築内容が異なっている:設計変更したのに申請せず承認されないまま工事をした等
- 規定された建ぺい率・容積率をオーバーしてしまった(敷地面積に対する建築面積・延床面積の法令違反)
- 幅員4m以上の道路に建物が2m以上接していない(接道義務違反)
- 建物が耐震基準や防火基準を満たしていなかった
- 建築基準法で規定された高さ制限・斜線制限をオーバーしてしまった
- 都市計画区域や風致地区等、建築制限のある地域で許可なく建物を建てた
ケースによっては行政から重いペナルティを受ける可能性もあるので注意しましょう。
違法建築を放置した場合のリスク
所有者の中には、「違法建築を放置してもバレないだろう」などと油断している人がいるかもしれません。
しかし、周辺住民や行政に違法建築である事実が発覚すれば、予想外に深刻なトラブルへ発展し、重いペナルティを受ける可能性があります。
(1)違法建築と発覚した後の流れ
違法建築〜強制撤去に至るまでの手順は次の通りです。
- 発覚・通報へ:近隣住民や通行人の通報、地方自治体の巡回調査で違法建築と発覚する可能性がある。地域を管轄する市区町村の建築指導課の他、消防署や警察に通報される場合もある。
- 地方自治体の調査:通報を受理した地方自治体が現地調査開始。調査は建築確認申請の有無・違反状況・安全性の他、必要に応じ所有者・施工業者へ書類提出を求める場合もある。
- 地方自治体が指導・是正勧告を行う:調査により違法建築と判断されたら、自治体職員から是正指導・勧告を受ける。
- 行政命令:是正指導・勧告に従わなければ、地方自治体は是正命令を行う。是正命令の内容としては違反部分の撤去や改修、使用停止があげられる。従わない場合は過料が科される可能性もある。
- 違法建築の除去を命じる:是正命令に従わないときは、地方自治体から違法建築を取り壊すよう命じられる(取り壊し命令)。
- 強制撤去:取り壊し命令に従わないときは、地方自治体が行政代執行を行う。所有者が反対の意思を示しても、地方自治体の手配した専門業者が建物を解体する。取り壊し費用全額が所有者に請求され、財産差し押さえが行われる可能性もある。
(2)違法建築を放置した場合のペナルティ
地方自治体の是正命令や使用禁止命令等に従わず、違法建築を放置していた場合は、次のような重い刑罰を受ける可能性があります。
- 行政命令に従わなかった:3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(建築基準法第98条)
- 建築確認申請をせずに建築した、完了検査を受けずに建築物を使用した:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(建築基準法第99条)
違法建築を放置していると、最悪の場合は、所有者が刑事施設に収容されてしまうおそれもあります。
違法建築が原因となるトラブルを起こさないための対策
違法建築に関するトラブルを避けるため、3つの対策を検討しましょう。
- まずは専門家に相談する
- 速やかに是正措置を行う
- 違反建築物の売却を検討する
それぞれの対策について説明します。
(1)まずは専門家に相談する
違法建築の問題を解決したくとも、解決方法がよくわからないときは、まず建築の専門家・法律の専門家に相談しましょう。
- 違法建築を是正する初期段階・是正計画の作成:建築士
- 地方自治体との交渉・法令に関する対応:弁護士
地方自治体の調査や指導・是正勧告を受けた場合は、所有者の自主的な解決を促す段階であるため、建築士と相談して違反となった部分や改善方法を協議します。
行政命令から強制撤去のような措置が進められている段階であれば、法律の専門家である弁護士と話し合い、今後の対応を取り決めた方がよいでしょう。
(2)速やかに是正措置を行う
地方自治体から指導・是正勧告を受けた場合は、建築士と相談しつつ、違反状態を解消するための措置を進めていきます。
次のような流れで是正措置を進めていきましょう。
- 建築士と共に是正計画を策定、是正後の建物の図面・工事スケジュールを記載する。
- 是正計画書を地方自治体(市区町村)に提出し、承認を得る。
- 是正工事を実施:施工業者が工事を進める。建築士の監理を受け、計画通りに工事が進んでいるか確認する。
- 完了報告:地方自治体(市区町村)に是正工事の完了報告書を提出し、完了検査を受ける。
(3)違法建築の売却を検討する
違法建築を放置したままとなり、今後も居住する予定がない場合、売却も可能です。
ただし、違法建築の物件を格安で売りに出しても、次のようなリスクがあるため、買い手はなかなか現れない可能性があります。
- 買い手は購入したくとも住宅ローンが組めない
- 違法建築の是正義務は新たな所有者(買主)に移る
住宅を購入するときは住宅ローンを利用する方々が多く、金融機関からの融資条件として建築基準法に適合している建築物が対象となります。
そのため、是正措置がとられていない以上、違法建築の場合は融資の許可が下りません。
たとえ買い手側が住宅ローンを利用せずに、違法建築の物件を手に入れたとしても、是正義務は新たな所有者に移ります。
結局、新たな所有者(買主)が是正工事の費用を負担しなければいけません。
そのため、違法建築の物件の所有者が売却を望む場合は、事前に是正措置を済ませておいた方がよいでしょう。
違法建築の不動産を相続した場合の対処法
違法建築とは知らずに被相続人の住居を引き継いでしまうと、住居の相続人が是正義務を負います。
違法建築の不動産を相続し、後々トラブルに発展しないよう、冷静な対応を行いましょう。
(1)まずは相続した不動産をよく調査する
相続の対象となる被相続人の住居に関する「確認済証」「検査済証」の有無をまず確認しましょう。
書類が見つからなくとも、地方自治体(市区町村)の建築指導課等の窓口で、「台帳記載事項証明書」の交付を申請し、検査が済んでいるか否かを確認できます。
台帳記載事項証明書に検査済証の日付がないときは、完了検査を受けていない住居であるとわかります。
調査は被相続人の家族が行う他、士業専門家(弁護士や行政書士等)に委託しても構いません。
(2)相続人が話し合って柔軟に対応する
遺産分割協議で遺産を分けるときは、被相続人の住居が違法建築であった旨を相続人全員へ周知させ、対応方法について協議しましょう。
例えば、次のような取り決めに至れば、相続人間での争いや、地方自治体・違法建築物件の周辺住民とのトラブルも回避できる可能性があります。
- 是正工事の施工業者の見積もりを踏まえ、違法建築の不動産を引き継ぐ相続人へ多めに被相続人の金融資産を相続させる
- 相続人全員が是正工事の費用等を均等に負担し、違法建築の是正を行ってうえで売却し、得られた現金を均等に分割する 等
遺産分割協議に期限はないものの、相続税が発生する場合は申告期限に注意しましょう。
相続税申告は、被相続人が死亡した事実を知った日の翌日から10か月以内となります。
なるべく相続税の申告期限内に遺産分割協議をとりまとめた方がよいでしょう。
(3)相続放棄を検討しよう
被相続人に目ぼしい遺産がなく、主に違法建築の不動産だけが相続対象となる場合、「相続放棄」を検討しましょう。
家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、申述が認められると、被相続人の遺産や負債を一切引き継ぐことはなくなります。
ただし、自分(申述人)が相続を放棄できても、次順位の親族が相続人に繰り上がる可能性もあります。
繰り上がった相続人との間で、違法建築を原因としたトラブルが発生する場合もあるでしょう。
相続放棄を行う前に、他の親族に影響がでないかを確認し、相続人として繰り上がる人がいる場合、当人に伝えましょう。
まとめ
違法建築の不動産を放置したままでは、周辺住民とのトラブルが起きたり、法令違反でペナルティを受けたりする場合もあります。
違法建築の不動産をどうすればよいかわからないなら、建築士や弁護士と相談し、冷静に問題解決の方法を検討することが大切です。