実家じまいとは?手順や処分方法も解説

親の住んでいた実家が空き家となり、「空き家をどうすれば良いかわからない」「放置したままではトラブルが起きるかも」などと、悩んでいる人は多いことでしょう。
親の住んでいた実家は思い出深い場所といえるものの、空き家となった状態で放置するわけにはいきません。
放置したままだと近隣住民とのトラブルや、行政からペナルティーを受けるおそれがあります。
そこで今回は、実家じまいの手順や処分方法について解説します。
実家じまいとは?
実家じまいとは、両親や祖父母の住んでいた実家を処分することです。
親族である自分が住んでいないからと空き家となった実家を放置している場合、想定外のトラブルが起きるおそれがあるからです。
(1)実家じまいと家じまいの違い
実家じまいと似た言葉に「家じまい」があります。実家じまいと家じまいの違いは下の表の通りです。
| 比較 | 主体 | 時期 |
| 実家じまい |
·所有者が生存:親族の誰か ·所有者が死亡:相続人 |
·所有者が生存:家から退去後 ·所有者が死亡:相続開始後 |
| 家じまい | 所有者本人 | 相続開始前 |
実家じまいは親・祖父母が介護施設等に入り元の自宅へ戻らない場合や、親・祖父母が亡くなった場合に検討します。
所有者の自宅を親族(子どもや孫等)が使用しないと決めたら、売却や解体する等して処分します。
一方、家じまいは所有者自らが生前に、終活の一環として自宅を処分する方法です。
所有者が独り身で自宅を引き継ぐ人のいない場合や、相続人となる家族はいても放置される可能性がある場合に、所有者本人が処分を進めていきます。
(2)実家を放置した場合のリスク
空き家となった実家をそのまま放置すれば、次のようなリスクが想定されます。
- 老朽化による空き家の倒壊
- 庭が荒れて害虫が発生したり、不審火や放火されたりして、近隣住民に迷惑をかける
- 不審者が住みつき周辺の治安が悪化する
- 特定空き家に指定される
空き家を放置すれば、空き家周辺の環境衛生や治安に重大な影響を及ぼす事態となるので、速やかな処分が必要です。
また、実家が市区町村から特定空き家に指定されると、固定資産税の納付金額が6倍にあがるだけでなく、最終的には行政代執行という方法で解体(解体費用は所有者に請求)されてしまうおそれがあります。
実家じまいの手順について
実家じまいは所有者が存命中ならその意思を尊重して進めます。
また所有者の死後相続が開始した際には、相続人が協力して実家じまいを進めていきます。
(1)実家じまいをする際の後片付けから処分までの流れ
実家じまいの手順は次の通りです。
- 家族で実家の処分を協議する
- 実家にある所有者の家財道具や衣類等を整理する
- 実家の処分を進める
実家の所有者が介護施設や医療施設に移り実家へ戻る見込みもない場合や、所有者の死亡で相続が開始された場合、まず家族(相続人)が実家をどのようにするのか話し合います。
所有者が生存中ならその意思を尊重しつつ、家族が冷静に協議しましょう。
協議後は実家にある家財道具や衣類等を整理していきます。
- 所有者が生存中の場合→介護施設・医療施設へ持ち込める家財道具や衣類等を選別し整理する
- 相続が開始された場合→遺品整理を行い、故人の家財道具や衣類等を親類縁者・友人・知人に形見分けするか、処分する
空き家となった実家を処分する方法は家族が引き継ぐ、売却する、解体する等、さまざまな方法が考えられます。
(2)遺言書で実家を引き継ぐ者が指定されていた場合
相続が開始され、被相続人(実家の所有者)が遺言書を作成していた場合、相続人の誰が実家を引き継ぐのかよく確認しましょう。
実家を引き継ぐ相続人が指定されていれば遺言内容に従い、当該相続人が相続登記を進めていきます。
ただし、実家を引き継ぐのがどうしても嫌なときは次の方法を検討しましょう。
- 相続放棄:相続の放棄を家庭裁判所に申述できる制度。ただし、他の遺産も取得できなくなる。
- 遺産分割協議:他の相続人に申し出て全員の同意を得られれば、遺言書と違う遺産分割方法を協議できる。
(3)遺産分割協議を開く場合
相続が開始され、被相続人が遺言書を作成しておらず、複数の相続人がいる場合は遺産分割協議を行います。
誰が空き家となった実家を相続するのか、相続人同士で慎重に話し合います。
誰が相続するのかどうしても決まらないときは、相続人全員の共有にしても構いません。
ただし、相続登記は共有者全員で行い、実家の売却や解体もやはり共有者全員の同意を必要とします。
実家の処分方法とかかる費用
実家の処分方法が決まったら、いきなり実行には移さず、後見人制度や相続登記等の手続きを済ませた後で進めていきましょう。
なお、実家を処分するときほとんどのケースで費用がかかってしまいます。
(1)まずは後見人制度の利用や相続登記等を行う
実家が空き家となったからといって、所有者以外の家族が勝手に処分してはいけません。
所有者が存命中の場合は次のいずれかの手続きを済ませましょう。
- 所有者の代理人になる:所有者本人から委任状を書いてもらえば、代理人(受任者)として実家の処分手続きを進められる
- 所有権移転登記を済ませる:所有者本人の同意を得て、実家の所有権移転(名義変更)を行えば自由に処分が可能
- 家族信託制度を利用する:所有者が認知症となる前に、実家の処分の取り決めた「信託契約」を締結すれば、受託者として実家の処分ができる
- 任意後見契約を締結する:所有者が認知症となる前に任意後見契約を締結後、任意後見人に就任すれば実家を処分できる(所有者が認知症発症後、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てが必要)
- 後見人制度を利用する:所有者が認知症となる等、所有者の意思確認が難しい場合、家庭裁判所に後見開始の審判を申立て、法定後見人に就任する
実家を処分するとき所有者の意思確認が難しくとも、さまざまな制度を利用すれば、よりスムーズに処分手続きを進められることでしょう。
一方、所有者が亡くなった後は速やかに相続登記を行います。
相続不動産の住所地を管轄する法務局に、登記申請書等を提出し、相続登記を済ませましょう。
なお、2024年4月から相続登記の義務化により申請期限が定められました。
- 2024年4月1日以後に相続発生:不動産の取得を知った日から3年以内に申請
- 2024年3月31日以後に相続発生:未登記の場合は施行日から3年以内に申請
相続登記を済ませないと、実家を引き継いだ人は自由に実家の売却や解体ができない他、10万円以下の過料が課せられる可能性もあります(不動産登記法第164条第1項)。
(2)処分方法その1:実家を売却する
実家を売却すれば、まとまったお金を得られる可能性があります。
売却後は固定資産税・都市計画税を支払わなくて済むこともメリットです。
得られたお金は所有者が生存していれば介護費用や生活費に利用でき、相続時には現金化しているため遺産分割もしやすくなります。
ただし、空き家を売り出してもすぐに買い手が現れるとは限りません。
また、基本的に売却するときは不動産会社に「仲介」を依頼します。
不動産会社に売却を依頼し、無事成約できたときは「仲介手数料」を支払う必要があります。仲介手数料の割合は下の表の通りです。
| 売却価格 | 仲介手数料の割合(上限) |
| ~200万円以下の部分 | 売却価格の5% |
| 200万円超~400万円以下の部分 | 売却価格の4% |
| 400万円を超えた部分 | 売却価格の3% |
それぞれの仲介手数料の割合に消費税を足した金額が「上限額」となります。仲介手数料の計算式は次の通りです。
(例)実家を300万円で売却できた
- 200万円以下の部分:200万円×5%=10万円
- 200万円超~400万円以下の部分:100万円×4%=4万円
合計14万円に消費税1万4,000円を加えると、仲介手数料の上限額は15万4,000円となります。
なお、2024年7月1日から空き家・空き地の円滑な流通を促す目的で、仲介報酬の特例規定が拡充されました。
- 売却価格800万円以下:最大30万円(税込33万円)
- 売却価格の800万円を超えた部分:売却価格の3%
ただし、不動産会社が原則である仲介手数料の割合(料率)を超えて、特例に規定された仲介手数料を得るときは、依頼者に対し説明のうえ合意を図る必要があります。
その他、売却益が出たときは「譲渡所得税」も納税しなければいけません。
(3)処分方法その2:実家を貸す
実家をそのままの賃貸戸建にする方法もあります。
空き家を手放さずに活用でき賃料収入が見込めます。
ただし、実家の状態によってはリフォームしてからでないと、なかなか借り手が付かない場合や、給湯器や水道・電気設備の修繕費用が家賃収入より多くなる場合もあるでしょう。
また、不動産会社に仲介を依頼した場合、仲介手数料を貸す側が負担する取り決めなら、原則として「1か月分の賃料×0.55倍の金額」と消費税を負担する必要があります。
(4)処分方法その3:実家を解体する
実家を解体する方法であれば、解体してから維持管理が不要になる他、更地にすると売却しやすいというメリットがあります。
ただし、売却をともなわない解体であるなら、解体費用は自分で負担しなければいけません。
解体費用は実家の状態や立地、解体の難易度によって変動し、100万円~300万円程度の費用がかかってしまいます。
実家じまいの相談先
実家の処分で悩んでいたり、他の家族と意見が合わず対立したりする事態も想定されます。
自分一人だけで悩まずに、法律の専門家や不動産の専門家に相談してみましょう。
(1)実家じまいの悩みは士業専門家に相談
実家じまいをどのように進めるのかわからない場合や、手続きを進めている中でトラブルが発生したという場合は、弁護士・司法書士・行政書士等の士業専門家に相談しましょう。
実家じまいを含めた終活や相続に関して豊富な知識を有している士業専門家に相談すれば、有益なアドバイスやサポートが得られます。
例えば、家族の誰かと実家じまいで対立しているなら弁護士へ相談してみましょう。
弁護士に依頼すれば、実家じまいの調整役として動き問題の解決が図れます。
また、登記の申請方法に手間取っているなら、司法書士に相談すれば登記手続きを任せられます。
(2)実家の処分を検討するなら不動産会社に相談
実家の売却や賃貸を考えているなら不動産会社に相談してみましょう。
担当者が相談者の希望を聴き、実家の状態や立地等を確認したうえで、最適な処分方法を提案します。
速やかに実家を売却したいなら、不動産会社が買取に応じる可能性もあります。
不動産会社が買い取るのならば、解体費用や仲介手数料はかかりません。
まとめ
実家じまいにはさまざまな方法があるものの、家族との協議や法的な手続きを済ませておかないと、予想外のトラブル発生やペナルティーを受ける可能性があります。
士業専門家や不動産会社に相談しながら、迅速に手続きを進めていきましょう。