管理不全空き家とは?想定される問題点や対策について解説
空き家の数が年々増加していき、管理されていない空き家などがあると地域社会に大きな悪影響を及ぼす恐れがあります。
そこで、2015年に空き家対策特別措置法が施行され、2023年にはその一部を改正する法律が公布され、新たに管理不全空き家が設けられました。
この記事では、管理不全空き家が定められた理由や、管理不全空き家が発生する要因などについて詳しく解説します。
管理不全空き家とは
ここからは、管理不全空き家の定義や、認定された時期などについて解説しましょう。
(1)そもそも空き家とはどのような状態か
まず気になるのは、空き家とはどのような状態を指すのかといった点です。
2015年に空き家に関する法律が初めて制定されましたが、この法律を空き家対策特別措置法といいます。
この法律が制定されてから行政が空き家の管理に対してさまざまな権限を持つようになりました。
この空き家対策特別措置法では、空き家の定義を1年以上住んでいない、若しくは使われていない家と定義しています。
国土交通省が公開した「空き家等対策の推進に関する特別措置法の 一部を改正する法律」によると、1998年に182万戸だった空き家が2018年には349万戸まで増加しています。
2倍近い増加数です。さらに2030年には470万戸まで増加する見込みとなっており、空き家に関する適切な対応が求められます。
(2)管理不全空き家の定義
空き家対策特別法では、空き家の中でも全く管理されておらず、いくつかの特徴を持つ空き家を特定空き家と認定し、行政が解消に向けて権限を持てるようになりました。
特定空き家に認定するのは自治体です。
管理不全空き家とは、空き家を特定空き家に認定するひとつ前の段階にある状態の空き家を指します。
つまり、空き家から管理不全空き家になり、最終的には特定空き家に認定されますので、管理不全空き家とは特定空き家の予備的な状態といえるでしょう。
実際に、空き家からどのような状態になれば管理不全空き家に認定されるのかといった具体的な基準などははっきりと決まっていません。
それは、法律改正されたのがまだ新しく2023年6月14日で、施行は2023年12月13日なので、施行されてから日が浅いことが主な理由です。
今後の運用によって、特定空き家と管理不全空き家の区別がさらに明確化されるでしょう。
(3)空き家法が改正された理由
空き家の増加は深刻な問題となっていますが、初めて空き家に関する法律として空き家対策特別措置法が制定されたのは2015年のことでした。
施行から数年が経過して、運用上いくつかの改善が必要になって2023年の改正に到りました。
これまでの法律下での運用は効果が限定的であった点が大きな理由と思われます。
特定空き家に認定されると、固定資産税の宅地並み課税の特例が適用されません。
また、いつまでも改善しない特定空き家に関しては行政代執行による解体ができます。
空き家対策特別措置法が施行されてから2019年までに、固定資産税の特例が適用されなくなった特定空き家は1,351戸、行政代執行に関しては260戸といった状況です。
対応できている空き家の数が少ない点が問題視されたものでしょう。
改正により「管理不全空き家」を「特定空き家」の前段階として設けることで、劣化の度合いなどを差別化し、空き家の状況に合った適切な対応ができるようになることが期待されます。
管理不全空き家に対する問題点
管理不全空き家に認定しなければならない空き家はどのような問題点があるのでしょうか。
ここからは管理不全空き家となる原因について解説します。
(1)安全面での問題
管理ができていない空き家の問題点として安全面で非常に危険である点が挙げられます。
建物の劣化が進んでいても管理されていないので、所有者が状態を掴んでいません。
特に、放置された空き家は劣化の進み方が早くなってしまいますので、廃墟化してしまう可能性もあるでしょう。
一番懸念されるのは、倒壊してしまう可能性がある点です。
いきなり崩壊することは考えにくいのですが、台風や地震などの自然災害により、通常では倒壊しない程度の被害でも倒壊してしまうかもしれません。
安全面の問題は、他の住民にも大きな被害を及ぼしてしまう要因になりかねませんので、管理不全空き家や特定空き家の認定を受けやすくなります。
(2)環境や衛生面での問題
環境や衛生面の問題も挙げられます。
管理されていない空き家は雑草などが生い茂ってしまい、害虫や害獣が発生しやすくなってしまいます。
換気されていない室内は、ゴキブリやネズミといった害虫だけではなく、シロアリが侵入してくるかもしれません。
シロアリは、近隣に飛散し他の建物にも被害を及ぼす可能性があります。
また、管理されておらず雑草が伸び切った空き家では不法投棄が発生するかもしれません。
不法投棄されたゴミが散乱してしまい、悪臭や火災といったリスクも考えられます。
特に家が密集しているような地域でこのような管理されていない空き家が出てしまうと、悪臭や火災など近隣住民に対して大きな悪影響です。
これも管理不全空き家に認定されやすい原因といえます。
(3)地域に対する悪影響
管理されていない空き家は近隣住民だけではなく地域全体に対する悪影響となりやすいでしょう。
管理されていない空き家があると、どうしても景観を損なってしまいます。
地域の不動産価値を引き下げてしまうかもしれません。
その地域で不動産が売りに出されているときに、近くに管理されていないような空き家があると誰も住みたいとは思わないでしょう。
つまり、管理されていない空き家があることで、近隣の家まで購買意欲が減少してしまう可能性が考えられます。
値段を下げなければ、売却ができないといった事態にもなりかねませんし、値段を下げた価格が相場となり、地域全体の不動産価値を下げてしまいます。
これも管理不全空き家がもたらす悪影響のひとつです。
(4)犯罪に利用される可能性
先ほど、環境や衛生面の問題で不法投棄による火災の心配を挙げました。
しかし、失火による火災だけではなく、放火の可能性も高まってしまいます。
また管理されていない空き家は誰も住んでいないことがわかりやすいため、不審者が侵入する恐れも高まるでしょう。不正な取引に使われてしまう可能性もあります。
浮浪者などが生活の拠点にしてしまい、地域の浮浪者が増加してしまうかもしれません。
どちらにしても、所有者地域住民とも大きなマイナス要因を負ってしまいやすいので、自治体から改善を要求されやすくなるでしょう。
管理不全空き家が発生する要因とは?
管理不全空き家も含めた空き家の増加は、上記の問題点も踏まえ、大きな社会問題となっています。
ではこのように管理不全空き家が増える要因はどのような理由からでしょうか。
ここからは、管理不全空き家が発生する要因について詳しく解説します。
(1)人口減少
家が余ってきているのが要因のひとつは、人口が減少しているからです。
内閣府が公表している「将来推計人口でみる50年後の日本」によると、2010年の128,057千人をピークに年々減少しています。
2050年には1億人を割り込む97,066千人、2060年には90,000千人さえも割り込むとの見解です。
特に少子高齢化が進んでいますので、今後、相続などにともない空き家が増加するでしょう。
団塊の世代と呼ばれる、1947年から1949年生まれの人口割合が非常に多いのですが、団塊の世代が所有していた家が相続により空き家となって増加しています。
このような現象がこれからも続いていくことや、家を相続した子供が遠方に住んでいるため管理されていない家が増加していくと考えられます。
(2)現代の経済的な要因
経済的な要因も管理不全空き家が増える要因のひとつです。
経済成長率は以前と比較してみると大きく減少していますが、住宅着工件数は比較的多く、年間90万戸前後の新築住宅が建築されています。
人口は減っているのに、新築の着工件数は変わらないので、空き家となった家を活用しようとする動きは自然と少なくなるでしょう。
新築着工件数といった経済的な要因も、空き家の増加に大きく影響しています。
(3)老朽化した家の増加
高度経済成長の時期、著しい経済成長を遂げた日本では新築住宅が急激に増えましたので、30年あまりの時を経て老朽化した家が増加しています。
先ほども述べましたが、新築住宅の件数は変わらずに増加していますので老朽化した家は流通しにくい状態になっているのが現状です。
流通しにくい家は放置されてしまう傾向が強いため、老朽化が進み管理ができていない空き家になってしまいます。
老朽化が進むと、修繕費用も高額になってしまいますので、住んでいない家にお金をかける必要性を感じないためにそのまま放置してしまうケースが多いといえるでしょう。
(4)相続の問題
前述しましたが、空き家となる原因の多くが相続によるものです。
親が亡くなり、相続しても遠方に住んでいるために管理できていない空き家が増加しています。
特に地方になればなるほど土地の価値が低いため、売却しにくく管理コストが見合わないために放置するといったケースです。
また、資産価値が低ければ低いほど、固定資産税も安くなるため、そのまま放置していても大きな負担を負いません。
それよりも管理コストを払う方が負担は大きいため、管理せずに放置するといったことから、管理不全空き家が増えるのもよくある事例といえるでしょう。
管理不全空き家に対する対策
管理不全空き家や特定空き家に指定されてしまうと自治体からさまざまな改善を指示され、最終的には強制的に解体されてしまいます。
管理不全空き家に認定されてしまうと、今後は大きな負担となってしまう可能性が高くなるでしょう。
ここからは管理不全空き家に認定されないための対策について解説します。
(1)空き家サービスを利用する
特に遠方などで管理ができない方におススメなのが空き家サービスの利用です。
空き家サービスとは、空き家から遠方に住んでいてなかなか管理ができない方などを対象に提供しているサービスで月に1回から2回程度不動産会社が空き家に出向きます。
そして、換気や修繕個所のチェックなどを行い、空き家の管理を代行します。
費用も月額1万円前後のケースが多く、そこまで大きな負担ではないでしょう。
(2)売却
管理ができない家で売却ができるなら、売却して現金化する方法も対策として挙げられます。
売却すると、今後空き家にかかる維持管理のコストを支払う必要がなくなり、将来的なコストもかかりません。
(3)解体して土地活用
空き家があるので、管理が必要になりますが、解体して土地の状態にしておくと、空き家を管理する労力や費用がかからなくなります。
解体の費用が最初にかかりますが、土地だけの状態に戻し、駐車場として活用できると、賃料収入が得られますので、固定資産税などの維持コストをまかなえるかもしれません。
(4)賃貸に出す
賃貸需要があるエリアなら、改装して賃貸に出す方法を検討してもよいでしょう。
管理コストはかかりますが、家賃収入が得られますので、コスト以上の収益が得られるかもしれません。
当初の改装費用が高額になるケースも多いので、しっかりと賃貸需要があるエリアかどうかの分析が大きなポイントといえるでしょう。
まとめ
空き家対策特別措置法が施行されて、空き家を管理しないことによる罰則が適用されると所有者には大きな負担となる可能性が高くなりました。
法改正により管理不全空き家が新設され、今まで以上に自治体からの指導が入りやすくなりましたので、空き家を管理していない方は要注意です。
遠方などに住んでおり管理ができない場合などは、早めに売却や解体など適切な対策を講じることが大切です。