管理不全空き家と特定空き家の違いは?定義や罰則の違いを解説
管理されていない空き家が増加していることを受け、空き家に関する法律として空き家対策特別措置法が2015年に施行されました。
そして2023年にこの法律が改正され、施行当初に管理されていない空き家を特定空き家としていましたが新たに設けられたのが管理不全空き家です。
この記事では、管理不全空き家と特定空き家の違いなどについて詳しく解説します。
管理不全空き家と特定空き家の特徴と定義
まずは、管理不全空き家と特定空き家の特徴や定義などについて詳しく解説します。
(1)管理不全空き家とは
前述したように、2023年に空き家対策特別措置法が改正され、新たに管理不全空き家が認定されるようになりました。
管理不全空き家とは1年以上、誰も住んでいない状態の家で管理が不十分であり、今後もそのままの状態だと特定空き家に指定される恐れのある空き家を指します。
管理不全空き家に指定するのは、地方自治体などの行政です。
これまでの空き家特別対策措置法では、特定空き家だけの認定でしたが、管理不全空き家は特定空き家に指定される前段階の状態であると考えるといいでしょう。
(2)管理不全空き家に指定される要因
管理不全空き家に指定される要因としては以下の4点が挙げられます。
- 安全性が疑われる状態
- 環境や衛生に悪影響を及ぼしている状態
- 地域のコミュニティや不動産価格に悪影響とみなされる状態
- 犯罪数が増加する可能性
倒壊の危険性がある家や、不法投棄でゴミだらけの家など近隣住民だけではなく、地域全体に悪影響を及ぼしてしまいます。
このような家を管理不全空き家に指定することで、行政を介入しやすくして早期改善を図る目的です。
ただし、法律が改正されて間もないことからまだ明確な基準は示されていません。
(3)特定空き家とは
特定空き家とは、1年以上誰も住んでいない状態で管理などがほとんどなされていない状態の家を指します。
特定空き家に指定するのは自治体などの行政側です。
約7割の市区町村で空き家など対策計画が策定され、令和2年度時点では約1.8万戸が特定空き家として指定されています
(4)特定空き家に指定される要因とは
特定空き家は空き家対策特別措置法の中において以下のような状態の家を指定するとされています。
- そのまま放置すれば、倒壊など著しく保安上危険となる状態
- 著しく衛生上有害となる恐れのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態
管理不全空き家の定義と似通っていますが、管理不全空き家は特定空き家の予備軍的な位置ですので、ある種当然のことといえるでしょう。
特定空き家になってしまうと管理不全空き家よりもより重い罰則を科せられますが、罰則については次の項目で詳しく解説します。
管理不全空き家と特定空き家における罰則の違い
管理不全空き家も特定空き家も、行政からペナルティが課せられます。
ここからは、それぞれに課せられる罰則について解説します。
(1)指導
管理不全空き家や特定空き家が直ちに改善が必要な場合、空き家の管理について行政から指導されます。
植木が伸びきってしまい隣の敷地に侵入しているケースや、窓ガラスが割れっぱなしで放置されているような状態の場合などに指導が入るケースが多いようです。
空き家対策特別措置法が施行され、令和2年までに助言や指導がされた特定空き家が約19,000件となっています。
指導の段階は特に罰金などはありません。
指導の段階で改善ができると、金銭的な罰則などを受けることなく特定空き家の指定を外せます。
(2)勧告
指導されても空き家の改善がまったく見たられない場合、次の段階として勧告となります。
特定空き家に指定されている状態で勧告を受けてしまうと、固定資産税の宅地並み課税適用から除外されてしまうのです。
宅地並み課税とは、居住用の建物が建っている土地は、宅地となり通常の固定資産税より1/3若しくは1/6まで減額されています。
つまり勧告を受けても改善されない場合、固定資産税が今まで支払っていた固定資産税の3倍若しくは6倍まで増えてしまうことになるのです。
勧告以降、特定空き家、管理不全空き家の改善が見られない場合は、金銭的なデメリットを負うことになってしまいます。
(3)命令
勧告を受けても改善されない空き家は、前述した固定資産税の適用除外を受けます。
あわせて、次に受ける罰則が命令です。
命令に対し違反してしまうと、50万円以下の過料に課せられます。
過料とは行政上の罰則を指し、空き家特別対策措置法上の罰則です。
刑事事件ではありませんので、前科は付きません。
しかし、固定資産の負担増だけではなく直接的な金銭の罰則となりますので大きな負担となってしまうでしょう。
(4)行政代執行
特定空き家や管理不全空き家についていくつかのステップを踏むごとに罰則が厳しくなります。
最終的な罰則が行政代執行です。
行政代執行とは、行政が所有者に成り代わり適正な管理に取り組むことを指します。
行政代執行に関しては、管理不全空き家は対象ではなく、特定空き家のみの罰則となります。
特定空き家だと、行政が所有者に代わって解体することです。
解体に及ばなくとも、何度も行政から改善を促されているのに所有者が対応しない場合には、行政が必要な対策をとることになります。
行政代執行により解体した場合、解体の費用は所有者に請求されます。
放置しておけば行政の費用で解体してくれるわけではありません。
逆に自分で解体するよりも高額な解体費用となる場合もありますので所有者にとってまったくメリットがないといえるでしょう。
特定空き家や管理不全空き家が増加する要因とは?
ここからは特定空き家や管理不全空き家が増加する要因について詳しく解説します。
(1)人口減少
最も大きな要因となるのが人口減少です。日本の人口は、2010年ころをピークとして人口が減少しています。
12,000万人以上の人口が2030年には12,000万人を割り込み、2050年には9,000万人台になり2060年には8,000万人台まで減少すると予測されています。
現段階でも人口は減少していますので、住む人がいなくなった空き家が増加しているといえるでしょう。
(2)老朽化した建物が増加
老朽化した建物が増加しているのも大きな要因です。
建物の老朽化は、空き家となっても流通に支障が出るケースが多いといえます。
なかなか空き家が流通しないことで、住んでいない家にお金をかけてしまう負担感から放置してしまい、さらに老朽化が進んでしまうといった流れになるでしょう。
特に、宅地開発して一気に売り出されたエリアなどは同世代の人が購入するケースが多く、築年数が経過してしまい、家を売却する物件が同エリアで増大します。
そうなると、複数の家が老朽化した空き家となりますので、さらに流通しにくくなるでしょう。
宅地開発したエリアの空き家が多くなってしまうと、ゴーストタウン化してしまう点も大きな懸念材料といえます。
(3)相続
相続も特定空き家や管理不全空き家の増加の主な要因のひとつです。
所有者の死亡後、遺産分割や相続手続きが複雑で時間がかかり、家屋の維持や管理が滞ることがあります。
とくに複数の相続人が関与する場合、空き家の運用や活用の合意が難しくなり、空き家の管理を誰がするか明確でないまま管理されない空き家となるでしょう。
また、相続税などで財政的な負担を負ってしまった上に、空き家がなかなか売却できないとなると維持管理や修繕費用も捻出できません。
そのため、空き家を管理せずに放置してしまうケースも増えているといえるでしょう。
(4)固定資産税
固定資産税も特定空き家や管理不全空き家の増加に影響を与えています。
前述したように、土地の固定資産税は家が建っていることにより、宅地並み課税が適用されますので、通常の固定資産税より1/3もしくは1/6まで抑えられているのです。
そのため、高額の固定資産税を納税したくないので空き家のまま所有しているケースが多いといえるでしょう。
また、高額な固定資産税がかかる場合、所有者は負担を軽減するために不動産を売却したいところですがなかなか売却できないと、維持・管理費用までかけたくはありません。
これにより建物が老朽化し、最終的には特定空き家や管理不全空き家になってしまいます。
税制改革や支援策の導入が、この問題への対策となることが求められるといえるでしょう。
空き家の管理に困ったときの相談先
ここからは、空き家の管理に困った場合の相談先を紹介します。
(1)自治体
自治体は地域の住民の福祉を担当しており、空き家の管理に困ったときには最適な相談先となります。
自治体は地域の実情に精通し、法的・行政的なサポートを提供可能です。
また、自治体は地域振興やまちづくりの一環として、空き家問題に積極的に取り組むことが業務の一環です。
地元の行政機関は住民とのコミュニケーションが密接であり、信頼性のある相談先となり得ます。
地域密着型のアプローチにより、地元の課題に即した解決策や、関連する支援プログラムや補助金の提案もしてもらえるでしょう。
(2)不動産会社
不動産会社は不動産の専門知識を有しているので、空き家の管理に困った場合に相談すれば、効果的かつ迅速な解決策の提供に期待できるでしょう。
賃貸、売却、管理から最適な活用方法を検討し、アドバイスします。また、賃貸で貸し出す場合など広範なネットワークを活かして入居希望者を見つけ出すことも期待できるでしょう。
不動産会社は法的手続きにも精通しており、所有者を保護するアドバイスを提供します。
不動産会社が提案する活用方法を実践してくれると、不動産会社にとっても収益性が期待できるため大きなメリットです。
緊急な状況にも迅速かつ適切に対応してもらえる可能性があります。
(3)NPO法人
NPO法人は地域社会に焦点を当て、住民の利益を最優先に考えるため、地域密着型のサポートが期待できるでしょう。
専門知識を有するスタッフが空き家に対する適切な解決策を提供してくれるでしょう。
さらに、NPO法人は公共の福祉に寄与する組織であるため、持続可能で社会的な解決策を模索し、地域全体の課題に対処する役割を果たします。
(4)親族
空き家の管理に困ったとき、親族に相談する方法も効果的です。
親族は血縁関係のつながりにより、相互の信頼関係が成立しています。
所有者の身になった適切なサポートを提供してくれるかもしれません。
相続や法的手続きにおいても、家族なら遺産や所有権の事情をより迅速かつ効果的に共有できます。
親族は通常、所有者の利益を最優先に考え、長期的な家族の絆を重視するので、空き家の問題においても共同で解決策を模索しやすい相談先となります。
まとめ
管理不全空き家と特定空き家の違いについて解説しました。
管理不全空き家に指定された場合、そのまま放置すると特定空き家に指定されるおそれがあります。
管理不全空き家や特定空き家に指定される可能性がある場合、できる限り早めに適切な対策を行うことが大切です。
空き家の管理に困った際は、早い段階で自治体や不動産会社など適切な相談先に相談しましょう。