実家売却を生前に行うメリットと注意点・所得税の特例も解説
まだ親が健在でも介護施設などに入所している場合、気になるのが実家の存在です。
既に相続するのがあなただけだと決まっている場合、親の生前に実家売却した方が良いのか、亡くなって相続が発生した後に売却した方が良いのか気になります。
この記事では生前の実家売却について、生前売却を行うケースやメリットや注意点などについて詳しく解説します。
実家売却を親の生前にやろうと考えるのはどんなケース
実際に親が健在なうちに実家を生前売却するケースはあまり多くはありません。
では、どのようなときに生前売却を検討するのかが気になります。
親の生前に実家売却をやろうと考えるのはどんなケースがあるのでしょうか。
(1)相続でトラブルが発生しそうなとき
実家を残しておくことで相続トラブルが発生する可能性が高い場合などは生前売却を検討するケースが多いといえるでしょう。
実家などの不動産は、相続人が複数いる場合や、相続人同士の仲があまりよくない場合などトラブルになることが多い財産です。
不動産は現金などと比較すると相続人で分けにくく、処分や管理の方法、持分といった点において争いごとが起こりやすいといえます。
親が健在なときに実家を売却し、現金化しておくと、相続の時に分けやすくトラブルの発生を事前に防ぐことにも繋がるでしょう。
相続におけるトラブルを防ぐ目的で実家の生前売却は、よくある事例のひとつです。
(2)譲渡税の支払いをなるべく抑えたいとき
実家などの不動産を売却する場合、購入時の金額よりも売却時の金額が高ければ、売却益に対して譲渡所得税が課税されます。
しかし、実家をマイホームとして居住していうちに売却した場合、利用できるのが3,000万円特別控除です。
売却益から3,000万円を差し引くことができるこの制度は、マイホームの場合における譲渡所得税の発生を大幅に抑える効果をもたらしています。
既に実家に住んでいない子供が相続し、実家を売却したとしても相続が発生した日の属する12月31日から3年間は3,000万円特別控除が利用可能です。
しかし、いつ売却できるかわかりませんので、気づいたときには3,000万円特別控除の適用期間を過ぎていたということも考えられます。
3,000万円の特別控除を忘れずに使いたいといった場合においても生前の実家売却を行う理由のひとつといえます。
(3)小規模宅地特例が利用できないとき
小規模宅地の特例の利用ができないときも実家の生前売却を検討するケースとして考えられます。
小規模宅地との特例とは一定の要件を満たした土地に関して相続時に評価額が最大80%まで減額される特例です。
土地の評価が3,000万円だった場合、最大600万円まで評価額が落とせますので、相続税に大きく影響するといえます。
しかし、一定の要件を満たさない宅地に関しては小規模宅地の特例を利用できません。
一定の要件とは、被相続人が居住の用や事業の用に供されている宅地や被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族が居住の用に供しているなどの要件があります。
小規模宅地の特例における利用の有無も、実家の生前売却を行う判断材料のひとつです。
(4)将来、実家に住む人がいないとき
親も既に介護施設に入所しており、将来誰も住む予定がない場合なども生前売却を行う理由のひとつです。
誰も住まない空き家状態の実家を維持するだけでも費用がかかります。
既に誰も住まないことが決まっているため、早めに処分することを目的として実家を生前売却されやすいといえるでしょう。
実家売却を生前に行うメリットとは
実家売却を生前に行う理由について前述しました。
実家を生前に売却するのは、当然ながらメリットがあると感じるために生前売却します。
実家売却を生前に行う場合どのような点にメリットを感じるのでしょうか。
実家売却を生前に行うメリットについて解説します。
(1)相続トラブルを未然に防止できる
相続トラブルの防止に繋がります。
親が生きている間に実家の処分方法が決められると、相続人間で話し合う場合よりもまとまりやすく、親の意向も反映しやすいといえます。
親の意見を聞いたうえで生前売却ができると、相続人同士も納得して売却ができますので、トラブルを起こすことなくスムーズに現金化することが可能です。
前述しましたが、不動産のまま相続してしまうと、管理や分割、処分といった点でトラブルの基となってしまいます。
親のはっきりした意思で生前売却ができますので、相続トラブルの防止に大きなメリットです。
(2)贈与の特例が利用できる
実家を売却して現金化してしまうと、不動産を所有しているときと比べ、相続時に相続税が高額になることが心配になるかもしれません。
しかし実家を生前売却し現金化すると、親から子に住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置などを利用し、贈与を行うと最大1,500万円まで控除が可能です。
贈与税の特例などを上手く有効活用することにより、相続時も財産を抑える効果ももたらし、相続になっても相続税に悩むことが少なくなるでしょう。
(3)終活がやりやすい
終活がやりやすい点もメリットです。
終活とは、年を重ね人生の最後に備え、身辺をきれいに整理し、残された家族に迷惑をかけないように取り組む活動です。
財産を残しておくと、相続のトラブルや相続税の発生など、終活の妨げになることも多いでしょう。
特に実家などの不動産は、生前売却などを行っておくと相続のトラブルを防ぎやすくなります。
さらに実家を生前売却するにあたって荷物の整理などがしやすくなる点も終活を楽にすることに繋がるでしょう。
子どもに余計なものをできるだけ残すことなく就活できる点もメリットといえます。
(4)維持費の負担で悩まない
維持費の負担で悩むことがありません。
実家を残してしまうと、維持費の負担が相続人にかかってしまい、定期的な修繕が必要になります。
また、実家を残しておくと、子どもが定期的に管理する手間も発生してしまいます。
生前売却してしまうと、固定資産税や都市計画税といった税金の負担や実家の維持管理費用などで発生する負担を軽減することが可能です。
生前売却により、実家に関する維持管理や税金の負担を無くすことができる点も大きなメリットといえるでしょう。
(5)売却代金で老後が安心して暮らせる
実家を生前売却することにより、売却代金を老後の生活に充てることができます。
生活費の足しにもできますし、レジャーを楽しみ、趣味をつくるのもいいでしょう。
旅行が楽しめるかもしれません。
年金だけでの生活に対する不安も払しょくできますし、貯えがあるだけで気持ちの余裕が生まれます。
実家を生前売却する場合の、親のメリットとして老後の暮らしが挙げられます。
実家売却を生前に行うときに利用できる所得税特例とは
実家売却を生前に行うことで、利用できる所得税の特例があります。
これらの特例は、親が亡くなり相続した後でも利用できる所得税の特例もありますが、期限が定められているものもあります。
生前の実家売却だと、これらの特例がより使いやすいといえるでしょう。
ここからは、実家売却を生前に行うときに利用できる所得税特例について解説します。
(1)譲渡税の3,000万円特別控除
自宅を売却する場合には前述した3,000万円特別控除が利用できます。
実家を売却した際、購入時の価格より高く売却益があった場合、3,000万円まで控除できる特例です。
マイホームの売却では、3,000万円以上の売却益がなければ譲渡所得税は発生しません。
生前売却することにより、譲渡税の3,000万円特別控除を利用できます。
(2)軽減税率の特例
実家を生前売却する場合10年超所有しており一定の要件を満たすことができると、軽減税率の特例を利用することが可能です。
軽減税率の特徴は、前述した3,000万円特別控除との併用が可能という点が挙げられます。
10年超所有した場合の軽減税率の特例は、所得が6,000万円以下の場合14.21%に減税される特例です。
(3)マイホーム買換え特例
親の生前中に実家を売却し、自宅を買い替えた場合、マイホーム買い替え特例が利用できます。
実家を売却した際に譲渡所得が発生している場合、譲渡所得税を買い替えた自宅の売却時まで繰り延べられる制度です。
いくつかの要件を満たす必要があり、売却した実家の価格が1億円以下であることや10年以上居住し、所有していることなどがあります。
また上記の3,000万円特別控除や軽減税率の適用と併用はできません。
生前の実家売却に伴う注意点
生前に実家売却する場合、どのような点に注意しておくといいのでしょうか。
生前の実家売却に伴う注意点について詳しく解説します。
(1)契約不適合責任
契約不適合責任とは、売買契約を締結し、引き渡し後に売買契約書に記載されていない不具合や修繕個所が発見された場合、売主が買主に対して負う責任のことです。
契約不適合責任を追及されてしまうと、修繕や減額を求められることになり、最悪の場合は売買契約が取り消しになってしまいます。
実家ともなると、築年数が長い可能性も高く、目に見えない不具合が発生しているかもしれません。
ホームインスペクションなどを活用し、建物の不具合個所を専門家に確認してもらうことで契約不適合責任に対するリスクを抑える必要があります。
(2)譲渡所得税
上記で何度か触れていますが、譲渡所得税に関しては注意しておきましょう。
譲渡所得は、生前売却によって3,000万円特別控除が利用できますが一定の要件を満たしておく必要があります。
親の属性や実家の状態によっては要件を満たさず、3,000万円特別控除が利用できないかもしれません。
3,000万円の特別控除特例の要件をしっかりと確認しておきましょう。
(3)場合によっては売却当初に費用がかかる
売却において初期費用が発生する可能性があります。
築年数が古い建物だと、買主から解体し更地で引き渡してほしいなどの要望が出されるかもしれません。
また、売買契約前に境界を確定する測量や、契約不適合責任を回避するためのホームインスペクションなど、売却当初に費用が発生するケースも多いといえます。
生前の実家売却時に、初期費用を準備しておく必要がある点も注意しておく必要があるでしょう。
(4)1社だけの売却価格で決めない
親の生前に実家売却を行う場合、一般的には不動産会社に売却価格を査定してもらいます。
1社だけに査定してもらうと、査定された価格の妥当性がわかりません。
他の不動産会社と比較すると非常に安い査定額かもしれません。
実家売却において査定する場合、複数の不動産会社に査定依頼するのがおススメです。
近年は、不動産一括査定サイトなどで不動産の情報を入力すると、複数の不動産会社から査定を取得することが可能になりました。
不動産一括査定サイトなどを有効活用して、自分なりに納得した上で売却価格を設定しましょう。
まとめ
実家の生前売却は、事例があまり多くはないとはいえ、相続トラブルを防ぐ役割や終活がやりやすくなるといったメリットもあります。
不動産は、相続の際にトラブルの原因となりやすいので、特に相続トラブルが心配な場合には生前に実家売却を行っておくといいでしょう。
この記事では親の生前に実家売却することについて解説しました。
大前提として、親の意思が明確に理解できていることがポイントです。
痴呆や病気などで意思疎通がやりにくい場合は生前売却も難しくなってしまいます。
生前かつ親の認識がはっきりしている上で、実家の処分についてしっかりと話し合う必要があるでしょう。